骨格筋における治癒段階の分別と解説
1) 急性炎症段階
2) 修復段階
3) 再構成段階
急性炎症段階

傷を負ってから最大3日間この段階が続く。
Kellet J: Acute soft tissue injuries ? A review of the literature. Med Sci Sports Exerc 1986; 18:489-500
この期間中は組織の血流と充血が増大します。そのために痛み、発赤、発熱、および腫脹が起こるのが一般的です。
この段階での治療は痛みを抑え、炎症を弱めることに集中するべきで、安静にする、冷やす、圧する、心臓より高くする、などの手法が有効であります。RICE=(Rest:安静、Ice:冷却、Compression:圧迫、Elevation:拳上)
腰痛の際行えるのは20分間氷でアイシングし2時間後また繰り返すという方法が安全です。
痛みがあまりひどくなければ脊柱マニピュレーション療法(SMT)を受けることが可能です。
修復段階

この期間は約3日から6週間である。
Kellet J: Acute soft tissue injuries ? A review of the literature. Med Sci Sports Exerc 1986; 18:489-500
瘢痕(俗に呼ばれるしこり)が形成されるのがこの段階の特徴です。
この期間中に組織の新しい土台をつくるために、身体はコラーゲンの敷設に専念します。このコラーゲンは元の組織よりも脆弱です。
それは第一に弾性特性が元の組織と違う事が理由です。弾性が以前とは異なる為、負傷前と比べて可動性も低い事になります。
第二に、負傷以前のコラーゲン(筋膜)は組織の用途に合った方向に並んでいましたが、新しいコラーゲンの配列にはそうした配慮がされていない事で、その結果、前の組織よりも脆弱で繊細な組織になってしまいます。
この段階でも治療はまだ痛みを抑えることを中心にするべきである。
そして重要なポイントとしては、治癒過程に入った軟部組織に張力を加えると線維網(ここでは筋膜の網状配列)は強制的により整った状態に配列されるということでです。
整った配列によって、瘢痕組織はより機能的に適応できるようになる。(元の組織により近くなる)この事はじっとしているとより悪くなる故、動ける範囲で動く事が大切と言われる語源です。
つまり、受動モビリゼーション、マッサージ、および脊椎マニュピレーション療法(SMT)は、痛みを和らげるばかりでなく、劣悪な瘢痕形成によって将来不具合が生じるのを防ぐためにも、どれも有用な手段であるといえます。
さらに、脊椎マニュピレーション療法(SMT)や関節モビリゼーションによって傷によって動かしにくい関節面に対しても栄養交換されます。
再構成段階

治癒の最終段階は1カ月から12カ月ほど続く。(およそ30日から365日)
Kellet J: Acute soft tissue injuries ? A review of the literature. Med Sci Sports Exerc 1986; 18:489-500
この段階では、急速なコラーゲン(主に筋膜域)の敷設に代わって、内的再配列と既存のマトリックスの再構成がおこなわれます。
この時期、身体は新たにつくられた組織の品質・柔軟性・耐久力の改善に努力を注ぎ、修復段階と同じく、再構成段階も適切に行われる療法家の影響(治療効果)を大きく受けます。
治療は、修復段階の治療と似ているが、目的が異なる。また、この段階ではこれまで以上に活発な治療に対して良い反応を見せる様になります。
一番修復に時間のかかる筋膜組織(コラーゲン組織)でも約9か月から1年で、身体は修復するのを終了します。
しかし、患者は第3段階の時期にやって来ているとしても治癒が未完成のまま取り残された瘢痕形成が残留状態になっている事が多いです。
それは一般に、1年以上傷を抱えている人はすでに身体の自己治癒システムが治癒段階を終えてしまい修復作業をやめてしまっているのです。
この時点での残留疼痛(違和感や時に現れる痛み)はコラーゲンの瘢痕形成の結果生じるものなのです。
この時期になると、以前負傷した場所からは別の種類の痛みが出ている事を確認できるでしょう。
そしてこのメカニズムを「ディネルベーション・スーパーセンシティビティー」(神経除去性過敏)と呼びます。
スーパーセンシティビティー(神経除去性過敏)

身体は外部内部に傷を負うと炎症をはじめ自己治癒過程を構成する要素が働き始めます。負傷すると神経組織が損傷し多くの場合に神経が破壊されるなどの影響を受けます。
更に脳と神経の結合部が損なわれその傷を負った部分が特に過敏になります。
それは、その部分に残っている細胞が負傷したままの組織で仕事をする様に命令を受け、その部分で神経構造が増殖し、過度の感受性(侵害受容器)を作り出すことからであるとされています。
そしてその感受性は通常の1000倍程に高まる事があるというのです。
そのために「スーパーセンシティビティー」超繊細ということですね。
神経構造の増殖は、骨格筋、平滑筋、脊柱のニューロン、交感神経節、副腎、汗腺、脳の細胞等で起こり、遠心性神経細胞、求心性神経細胞の両方で影響を受けます。
これまでに解説した3段階の治癒段階のうち2段階を終えた時点ではまだ「スーパーセンシティビティー」は消えません。
要するに、傷を負った部分は見た目上、構造上修復が完了されている様に思う状態でも6週間は何らかしらの痛みや違和感、過敏性を感じ続けるという事になります。
場合によってこれはトリガーポイントや抹消神経性感作とも例えられていると思います。
今日のまとめ
今日は骨格筋における治癒段階の3つの分別を学びました。
ここでしっかり理解するべきは、身体の中に起こっている傷も皮膚上に起こるような単純な傷と同様で、傷が塞ったあとも修復を続けていかなければならないということです。
それを目視できないがために、数週間で痛みが治ったからと言って無理な動きをしたり、強く揉んだりすることで症状が再発しています。それは場合によっては塞がりかけた傷跡を開いたり、治った炎症を再発ささせたりして瘢痕組織をより強固で大きなものにしている可能性があります。より強固で大きくなった瘢痕組織は完全修復までより多くの時間と苦労を必要とします。
身体の中に起こった傷を、指先につけてしまった深い切り傷のように慎重に手当てして、状態を見極めてあげなければいけません。
皮膚の表層にできた傷を再発させる人が少なく、腰痛など身体の中に問題がある症状を再発させる人が多いのは、ただ目視できないからなのかもしれませんね。
これで今の症状の状態が理解できたのではないでしょうか?そしてこれからどのように変化して、それに対してどのような心構えで準備をする必要があるか理解できたと思います。
最初にも述べましたが、「腰痛はいつも複合的で複雑です。今までに何度も克服を試みたでしょう、しかし改善しないのは腰痛の性格を1%も知らないからです。いくら良い治療をしても原因を作り出す私生活の上では無意味です。」ですから今の自分の居場所をはっきりして準備し、焦らず腰痛と戦いましょう。
では、今日はここまで。